「やるしかないんです」
開会式の選手宣誓で誓った言葉の舞台は、9回二死からやってきた。5-8の3点差。ネクストバッターズサークルで待つ背番号16のキャプテン、山田優気は苦しい思いばかりが続いた3年間を振り返るように、じっとバットを見詰めていた。
新津高校に入学して野球に打ち込んでいた1年秋、突然山田はボールが投げられなくなった。失敗など様々な恐怖心から投球ができなくなる心の病「イップス」になってしまった。
「一時期は練習始めのキャッチボールも、ボールを握るのも嫌でした」・・・この日を境に子どもの頃から大好きだった野球が、己を苦しめるものへと変わってしまった。
「怖い部分があって、正直逃げた時もあった」と振り返る。新チームでキャプテンになったが、投げられない自分への不甲斐なさと闘い続けた。去年夏には部員がランニング中に死亡する不幸な出来事もあった。秋には公式戦への出場を辞退した。主将としてチームをまとめるには余りにも困難な状況が次から次へと山田に起きた。
それでも山田は言う。「いろんなことがあっても、自分たちがやるべきことは野球で、とにかく一生懸命日々を送ることしかないのかと。それを一生懸命やることで、これから先の未来が良い方向に行けばいいとだけ信じてやってきた。付いてきてくれた仲間に感謝しています」
選手宣誓では全ての選手を代表して、思いを表現した。
「人は時に夢を諦めそうになったり、言い訳をして、歩むことをやめてしまうことがあると思います。その回数や挫折の大きさは人それぞれかもしれません。しかし、そこで何もしなければ一向に前に進むことはできません。やるしかないんです」
それは、様々な困難に挫けそうになった自分自身への言葉だった。
佐渡総合との試合はベンチから見守った。1-1の同点から6回表に4点を入れ5-1とリードした。しかしその直後、4連打を許し2点差に詰められると、佐渡総合の1番渡辺に逆転3点本塁打を浴びた。さらに2点を追加され5-8とリードされた。
迎えた最終回、二死から代打で打席に立った。
「自分と交代した選手、ベンチに入れなかった選手、その人たちの気持ちに応えるために次の打者に繋ぎたかった」
真ん中高めのストレートを思い切り振り抜いた。打球は遊撃手の後方に飛んだ。「落ちてくれ」・・・そう願ったが無情にも打球はグローブに吸い込まれた。
相手の校歌を聞く新津・山田優気主将(右から2人目)
試合後、涙を拭いた山田は落ち着いた表情で答えた。
「応援してくださった人たちに勝利で応えたかったが、高校野球ではもう表現できない。申し訳ない。負けたということは、自分もチームももっとやるべきことがあったのだと思う。でも仲間には感謝しています。自分はこのまま悔しい思いをしたまま終わりたくない。この思いをいかして、成長していかなければいけないと思います」
思いもよらぬイップス、そして様々な困難と闘い続けた3年間。
そして、今後も野球は続けるのか?との問いに山田はこう応えた。
「自分はまだ野球を完全に好きになれていない部分がある。だから、野球を好きになって終わりたいんです」
高校野球を終えた山田。だがその野球人生はまだこれからも続いていく。野球を好きになるその時まで、「やるしかない」のだから。
(取材・撮影・文/岡田浩人)