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【高校野球】それぞれの夏・・・16年ぶりの夏に挑む「校長監督」が伝えたいこと

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第101回全国高校野球選手権・新潟大会で、全国的にも珍しい「校長監督」が指揮を執る。白根の長田裕校長(58)は今春から野球部監督も“兼任”する。かつては長岡、新潟江南で監督を務め、2000年夏には新潟江南でベスト4進出を果たしたこともある経験の持ち主。白根は今春、野球部監督が定年退職。後任監督のなり手が見つからない中で「部員を見捨てるわけにはいかない」と、校長自らがグラウンドに立つことを決めた。2003年以来、16年ぶりにグラウンドで迎える夏。長田監督は「何とか勝たせてあげたい」と闘志を奮い立たせている。

ノックバットを振る長田裕“校長監督” 16年ぶりに夏の大会の指揮を執る

「前へ出て捕れ!目でしっかりボールを追って!」

新潟市南区の白根高校グラウンドに大きな声が響く。声の主は長田裕監督。昨春、校長として赴任した。今春から校長と併せて、野球部監督も兼任することになった。

新潟県高野連に県内で「校長監督」を務めた人がいるかどうか尋ねたが「記憶にない」という。大阪の名門・PL学園が2013年から15年にかけて野球経験のない「校長」が「監督」も務めたことで話題となったが、全国的にも珍しい出来事である。

就任の経緯について長田監督は「イレギュラーでした」と振り返る。今春限りで前監督が定年退職。校内には野球を教えることができる教職員がいなくなってしまった。「前監督も含め、野球部OBや外部の人にもお願いしたが、皆さんお忙しくて時間の都合がつかなかった。でも部員を見捨てるわけにはいかない。『仕方がない、自分がやるしかない』となりました」と語る。


打撃練習で使うマシンの調整を行う長田監督

白根は昨夏の新潟大会で、ベンチ入り14人ながら2回戦でシード校を撃破するなどベスト16に進出した。2011年夏にはベスト4入りしたこともある地域の伝統校。しかし、昨夏以降は現3年生部員が5人だけとなり、単独出場が危ぶまれた。今春になり、新たに3年生1人、2年生1人、1年生3人が入部。2年生助っ人を入れ、11人のベンチ入りメンバーでこの夏を戦うことが決まった。

ただ、部員たちは誰が監督を務めるのかが気になっていた。

4月のある日、「長田校長が監督を務めるようだ」と部員たちは耳にした。主将の長谷川翔馬(3年)が振り返る。

「校長先生が去年、何回か練習を見に来たことがあって、どこかで野球を教えていたことがあるらしい、とは聞いていました。ただ、監督になると聞いて『本当に校長先生がやるの!?』と思いました。初めてグラウンドに来て、ノックバットを持ったら、人が変わったような打球を打って、びっくりしました。『校長』から『監督』に変わった瞬間でした」


ノックでは選手に考えさせる打球を丁寧に打っている

長田監督は身長163センチと小柄。しかしその球歴と指導力は確かなものがある。高校時代は新潟高校の野球部で三番打者の内野手として活躍。同期のエースは、現在NHKキャスターを務める大越健介氏で、ともに戦った1979年春の県大会で準優勝。同年夏にはベスト8に進んでいる。その後、筑波大で科学的な野球指導を学び、新潟県で高校の体育教員となった後は、長岡や新潟江南で野球部監督を務めた。いち早くウェートトレーニングの必要性を重視した練習メニューを考案。2000年夏には新潟江南を率いてベスト4進出を果たしている。

2004年春、現場を離れ、県庁保健体育課に4年間勤務。その後、長岡大手、分水、新発田南、巻で教頭を務めた。昨春から白根で校長を務めている。

久しぶりの現場復帰で「昔を思い出した」と長田監督。「トレーニングを続けていたから」と当時と変わらない体形を維持している。ノックでは「外野への打球が飛ばなくなった」と苦笑いするが、難しいキャッチャーフライを一発で決めるのは、さすがといったところ。

エース左腕で四番打者の外川大生(3年)は「打撃ではティーを打っている時にしっかり見ていてくれて、『トップの位置がバラバラ』とすぐにアドバイスしてくれました」と話す。選手たちは徐々にその指導力に信頼を置くようになった。


ミーティングでは自ら分析したデータを配る 意識づけを大切にしている

校長の仕事との兼任は「大変」と表現する。「朝7時には学校に来て、校長としての業務をできるようにしています。できる限り放課後の練習には行けるようにしています」と話す。会議などで顔を出せない時は、長谷川主将に前もって練習メニューと意図を伝えるようにしている。

自らを「根っからの野球小僧」と表現する長田監督。校長としての仕事を必死に務めながら、夕方になるとグラウンドのことが気になる。高校時代のチームメイトだった大越健介氏に、校長と併せて監督を務めることになったことを打ち明けると「本当にできるの?」と驚かれたが、「頑張って」と激励されたという。

監督として、16年ぶりに迎える夏。

チームの課題は「取れるアウトを1つ1つ取ること。やるからには自分が何ができるかを考えながら指導している」という。ノックでは身振りを交えながら、選手にアドバイスを送る。この夏、監督として選手に伝えたいことを尋ねると、笑顔を見せた。

「やっぱりグラウンドに出たら、勝ちたい。何とか勝たせてやりたい。勝つ喜びを教えてあげたい。部員が少なくても、目標は『甲子園』です」


部員10人とマネージャー1人、そして長田“校長監督”(後列右端)と挑む白根

エースで四番の外川大生は「校長先生が言うように甲子園を目指してやっています。人数が少なくても関係ない。チームのために頑張りたい」と力を込める。主将の長谷川翔馬(3年)「まずは去年夏のベスト16を越えること。1人1人声を出していきたい」と大会への意気込みを語る。

初戦となる万代戦は12日に行われる。

「若い監督と対戦するのも楽しみ」

そう話す長田監督。思わぬ形での現場復帰となった夏…「来春の人事異動によっては、この夏が“高校野球の監督”としてグラウンドに立つ最後の夏になるかもしれないのでは?」…そう水を向けると、にやりと笑って言った。

「定年後の“再任用”がまだあるかもしれないよ」

校長先生は、野球が大好きなのである。


ボール回しを見守る長田監督 シャツの背中には16年前まで監督を務めた「NIIGATA KONAN」の文字が。「これしか持っているシャツがないから」と笑った

(取材・撮影・文/岡田浩人)


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