この原稿を書いている時点で日付が変わり、きょう28日に高校野球の秋の県大会が決勝戦を迎えます。中越vs日本文理。今夏の主力選手が多く残り、前評判通りに強打と安定した守りで順当に勝ち上がってきた中越。甲子園でベスト4に進出したことで新チームのスタートが遅れ、手探り状態ながらも接戦をものにし勝ち上がってきた日本文理。非常に興味深い一戦です。
決勝を前に両監督は対照的な言葉を発しています。中越の本田仁哉監督が「この秋は優勝して上の大会に行こうと目標にしてきた」とあくまで県1位という結果を求める姿勢を全面に出しているのに対し、日本文理の大井道夫監督は苦戦続きということもあり「北信越大会に出られるだけで十分。あすは中越の胸を借りたい」と半ば白旗をあげるかのようなコメントを残し、報道陣から苦笑が起きました。確かに準決勝を見た限りでは、投打で圧倒しコールド勝ちした中越と、終盤に辛くも逆転勝ちした日本文理では、チーム状態に差があるように見えます。またお互い北信越大会出場を決めた中で、ややもすると「勝っても負けても北信越大会には行ける」という「消化試合」的な空気がグラウンドやスタンドを覆うことがあるかもしれません。
しかし、僕はこう考えます。ひょっとするとこの決勝戦が、この先、5年から10年先までの新潟県の高校野球界の『覇権』や『流れ』を決める戦いになるかもしれない、と。
僕が高校野球を見始めた1980年代は間違いなく『中越の時代』でした(強力なライバルとして新発田農の存在がありました)。80年代の10年間で中越は4度甲子園に出場。特に85年と86年には夏2連覇を果たすなど新潟県の高校野球界を牽引してきました。
その後、1990年代に入ると新潟明訓や日本文理などの新潟市の私学が台頭。2000年代以降、特にここ最近の10年間の県勢の甲子園での躍進は間違いなく日本文理が牽引してきました。2006年春の選抜初勝利とベスト8、2009年夏の準優勝、そして今夏のベスト4と新潟県の高校野球史を塗り替えてきました。
その間、中越は2003年夏の出場を最後に甲子園から遠ざかっています。中越が日本文理に公式戦で勝利したのはこの2003年夏の新潟大会決勝(中越5-4日本文理・延長11回)が最後。それ以降、中越は日本文理の牙城の前にことごとく屈してきました。最近では昨夏の準々決勝、そして今夏の準々決勝でいずれも1点差で涙を飲んできました。
その中越がこの秋は久々に優勝候補の『本命』に挙げられ、その前評判通り勝ち進んできました。特にこの夏の日本文理への敗戦で、主力だった2年生たちは並々ならぬ決意で真夏の練習に取り組み、「復讐」の機会を待ちに待っていたと思います。
対する日本文理は「練習試合が2試合しかできなかった」(大井監督)と言う通り、新チーム作りが遅れました。大会序盤から選手たちが明らかに実戦(公式戦)慣れしていないと感じさせるプレーを見せてきました。ただし全県、あるいは県外からも有力な選手が集まるようになっている日本文理の試合を見ると、選手たちのポテンシャルはやはり他の高校と比べると一歩抜きんでたものがあります。
大会前、県内の野球関係者からこんな声が聞かれました。「この秋、日本文理が県大会を制することがあれば、この先も日本文理1強の時代が続く」・・・つまり新チームのスタート遅れから準備不足で大会を迎えながらも日本文理が優勝することがあれば、この先も日本文理が新潟県内で勝ち続けるだろう、という推測です。
昨春のシード順位決定戦から始まった日本文理の県内公式戦の連勝は、去年夏、秋、ことし春、夏、そしてこの秋のきのうの準決勝までで『30連勝』の大台に達しました。これは2005年秋から2007年春の準々決勝まで、日本文理のいわゆる「横山・栗山世代」が記録した27連勝を超え、県内の高校球界歴代2位の記録となりました。
そして、その県内公式戦の連勝1位の記録を持つのが、中越なのです。伝説の4番打者・治田仁さんを擁した1985年春、夏、そして新チームになった秋、翌86年春、夏といまだに破られていない県大会5連覇、そして34連勝という県内公式戦連勝記録を今から28年前に打ち立てています。
連勝街道を突っ走る日本文理と、かつて連勝街道を突っ走った中越の2校による決勝戦。奇しくも現在の中越のファーストを守る治田丈選手は治田仁さんの息子・・・新潟県高校野球界の何かしら因縁めいたものを感じてしまいます。その中越が決勝で日本文理の31連勝を阻止し、2009年秋以来の優勝を飾ることができるか。それとも日本文理が中越に並ぶ県大会5連覇を達成し、県内連勝記録をさらに伸ばすことになるのか。
そして記録以上に、この決勝の行方が昨年から続く日本文理1強時代がまだ当分続くのか、それとも中越を始めとした他の学校がその流れを押し戻す形を作るのか。「何とか流れを変える試合にしたい」と漏らした中越・本田監督。そして前述したようなコメントを残していますが人一倍負けず嫌いな日本文理・大井監督。あとから歴史を振り返った時に「あの試合が分岐点だった」というような試合になる予感がします。非常に楽しみな決勝戦です。
(文/岡田浩人)