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【高校野球】それぞれの夏・・・5年ぶりの単独出場・有恒

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第98回全国高校野球選手権新潟大会が8日に開幕。参加86チームが1枚の甲子園切符をかけて熱い戦いを繰り広げる。特に3年生にとっては最後の夏・・・それぞれが特別な思いを持ち、この夏を迎える。


「このままだと今年の夏の大会に出場できなくなる」
上越市にある有恒の高岡禎監督(42)は今年4月、岡田壮太主将(3年)を呼んでそう告げた。有恒の野球部員数は3年生が2人、2年生が2人、マネージャーが2人。春の県大会は部員不足に悩む他の2校と連合チームを組んで試合に出場した。しかしその連合相手のチームが夏の大会では1校は単独出場できる見込みとなり、もう1校は出場をあきらめるというのだ。

監督の言葉を聞いた岡田主将は焦った。
「なんとかしなければ自分たちの高校野球が終わってしまう・・・」

岡田壮太主将(前列中央)と有恒メンバー 5年ぶりの夏の単独出場で勝利を目指す

有恒の学校創立は明治29年(1896年)、野球部の創部は昭和37年(1962年)とその歴史は古い。7年前に赴任した高岡監督は新潟南高校のOBである。2011年夏の新潟大会では初戦の2回戦で長岡商に8対5で勝利。3回戦では1対8で帝京長岡に敗れた。その試合を最後に、以後の夏の大会は人数不足から連合チームでの出場を余儀なくされた。

「生徒たちに本物の高校野球を経験させたい。だから部員数が少なくても妥協はしません。4人しかいなくても、通常は夜8時過ぎまでしっかり練習します。その代わり部員が多いチームの半分の時間でできる練習を、2倍、3倍とやらせます。その練習も試合のための練習。だから試合に出ないという選択肢はありえないんです」

そう指導方針を語る高岡監督。部員減少に悩んできたが、2012年に連合チーム制度が認められて以降、有恒は常に連合を組み、大会に出場してきた。2013年9月には3校連合で公式戦初勝利。2014年4月にも1回戦を突破した。

ノックを打つ有恒の高岡禎監督 少人数でも厳しい練習で妥協を許さない

少人数でも連合を組みながら、つないできた有恒・野球部の歴史。
しかし3年生2人にとって最後の夏を迎える直前、その歴史が途絶える危機が訪れたのだ。

残された手段は2つだった。
1つは、同じように人数不足の別の連合相手を探すこと。
もう1つは、新たに部員を募集するか、助っ人を集め、大会出場メンバーを9人以上にすることだった。

岡田主将はすぐにマネージャーを含む部員6人でミーティングを開いた。
「新しく連合を組む相手・・・と言っても、どうしても距離が遠い場所のチームになってしまいます。選手同士のコミュニケーションも取りづらい。だったら、学校内から助っ人を集めようと、みんなで話して決めました。とりあえず中学校まで野球をやっていた人間をリストアップして、ダメもとで声をかけてみようと」(岡田主将)

マネージャーの池田詩穂さんはSNS短文投稿サイトのツイッターで新たな部員と助っ人の募集を呼び掛けた。「3年生の最後の大会に何とか出場させてほしい。力を貸してほしい」・・・その切実な訴えは多くの人の心を動かした。

「自分にできることがあればと思って呼びかけました。たくさんの人から応援の言葉をいただきました。『応援してます』『頑張ってください』と言われて、本当にうれしかった」(池田さん)

マシーンを運ぶ池田詩穂マネージャー(3年) 裏方として部員たちを支えてきた

5月半ば、部員たちの必死の呼びかけに、助っ人が集まった。3年生1人、2年生2人、1年生3人の計6人。いずれも野球経験者。夏の大会の登録期限が迫っていた中での“逆転ホームラン”だった。助っ人に応じた1人、近藤元気さん(3年)は“帰宅部”だったが、中学時代は軟式野球部に所属しキャッチャーの経験があった。

「5月のテスト前に声をかけられて、すぐにOKしました。少しでも力になれるならやってみたいと思いました。高校ではたまにキャッチボールするくらい。最初はなかなか感覚が戻ってこなくて。でも少しやったら取り戻せました。やっぱり野球は楽しいなと思いました」(近藤さん)

ブルペンで投手の球を受ける近藤元気さん(3年) 中学時代の経験をいかす

5月24日には助っ人部員が合流して、初めての練習をおこなった。
「最初は連係プレーなどがうまくできず、本当にこれで試合ができるのかなと不安もありましたが、徐々にできてきて、練習試合も8試合やってポツポツと勝てるようになりました。レベルアップできている手応えがあります」(岡田主将)

全員が野球経験者とあって、一見すると誰が助っ人なのか分からないほど。「投手とは普段の学校生活でもコミュニケーションを取るように心がけています」(近藤さん)というように、チームワークも徐々によくなってきた。

開幕を2日後に控えた6日、テストあけの練習を終えた後、高岡監督が1人ひとりに背番号を手渡した。照れくさそうに受け取る助っ人部員たち。
「君たちの力を野球部のために貸してください」
最後に高岡監督がそう呼びかけると、助っ人部員たちの表情が引き締まった。

6日の練習後、高岡監督(右)が選手たちに背番号を手渡した

助っ人キャッチャーの近藤さんは「普段から練習をしているチームと比べるとレベルは違うかもしれませんが、あきらめず、1勝できるように頑張りたい」と初戦への意気込みを話した。

「一番は悔いのない試合をすること。3年間、単独チームでは試合をやったことがなかったので、最初はどうなるのかと不安もありましたが、段々慣れてきて、いけるのではと思っています」と岡田主将。池田マネージャーは「多くの人に感謝を伝えられる試合にしたい」と目を輝かせる。

8日の開会式では5年ぶりに揃いのユニフォームで入場行進した。目指すは5年ぶりの夏の勝利・・・チームが1つになって戦うつもりだ。

8日の開会式で行進する有恒 5年ぶりの単独出場で勝利を目指す

(取材・撮影・文/岡田浩人)


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