ルートインBCリーグの新潟アルビレックスBCで、今季就任した元巨人捕手の加藤健総合コーチ(37・新発田農高出身)が全体練習(キャンプ)3日目となる11日、4人の捕手を集めて本格的な動作指導を行った。加藤コーチは「捕手としての基本中の基本の動きについて、自分が大切にしてきたことを伝えただけ」と話すが、現役時代さながらの動きを交えての指導ぶりに、選手たちは「今までに学んだことがない動きを教わった」「NPBの舞台で捕手として長年経験したことをもっと吸収したい」と目から鱗が落ちた様子。加藤コーチは「選手の引き出しを増やしてあげることが自分の課題。自ら気づく選手を育てたい」と力を込めた。
本格的な捕手指導をスタートさせた加藤健総合コーチ(中央)
「手だけで投げにいかないで、足を使って!」
新潟市のハードオフ・エコスタジアムの室内練習場に“カトケン”の声が響く。4人の捕手1人ひとりが、加藤コーチから受けたボールを素早く返球する練習を繰り返していた。低く構えた“そんきょ”の姿勢からの送球動作は何度も繰り返していると下半身に疲労が溜まる。選手の苦悶の表情を浮かべる中、加藤コーチが言う。
「キャッチボールは楽な姿勢から投げることができるけど、キャッチャーは特殊な仕事で難しい体勢から色々な場所に投げなければいけないからね」
時に自ら動作を交えて指導も。「右膝、左膝、そして股関節を意識して投げることが大事」。その動きに選手たちが大きく頷いた。
加藤コーチのメニューに苦悶の表情を浮かべる捕手の4人
「押しつけるのはいいとは思わない。ただ、自分が『こういう練習が役に立った』と思ったことを選手に伝えて、一緒にやってみようと話しました。現役時代はブルペンでの返球の時も、ただ投手に投げ返すのではなく、膝や股関節の動きを意識して投げ返してきました。そういう“意識づけ”が大事」
高卒でプロ入りし、巨人一筋18年の現役生活を送った。一軍レギュラーではなかったが、控え捕手としてチームの危機を救ったこともある。ただ「自分も入団したての若い頃は『自分が活躍できれば』と思っているだけで、周りのことは考えていなかった」と笑う。入団後、年齢を重ねるうちに「周りが見えてきて、どうすればこの中で試合に出ることができるか、練習でどういう工夫をすれば試合でいかすことができるか…いろいろと自分で考え、気づくようになりました」と語る。
2016年に現役を引退してから2年間、「球団社長補佐」としてチームの裏方の仕事を見てきた。今季は球団社長補佐と併せ、「総合コーチ」にも就任。現役以来となるユニフォームを着て、若い選手たちと汗を流している。
「選手には『人』に興味を持ってほしい。押しつけでは気づかない。自ら気づく、気づこうとする選手を育てたいんです」
加藤コーチ(写真上)の投げる球を捕球する4人。左から西澤和史、齋藤優乃、宮沢直人、松山翔吾。正捕手争いもし烈
「口調はソフト、内容はハード」という言葉がぴったりな加藤コーチの指導。練習中の雰囲気は明るいが、1つひとつの練習が終わるたびに選手たちが苦悶の表情を浮かべる。今季滋賀から移籍した松山翔吾(21)は「前のチームでは捕手出身のコーチはいなかったので、ここまでの練習はしたことがなかった」と言い、クラブチームから入団した西澤知史(22)は「股関節を柔らかくしろという指導は今までも聞いたことはあったが、具体的に(加藤コーチが)動きながら見せてくれるような指導は初めて。もっと吸収して自分の力にしたい」と目を輝かせた。その経験と指導内容に選手たちは絶大な信頼を置いている。
新潟が独立リーグ日本一に輝いた2012年前後の“黄金期”には、投手陣を引っ張る正捕手の存在があった。しかし3年連続でプレーオフを逃した昨季は正捕手が定まらず、不安定な戦いとなった。扇の要である正捕手の育成は新潟が優勝を目指す上では欠かせない。4人による正捕手争いは始まったばかりである。
「捕手としても打者としても、引き出しが多い方がいい勝負ができる。その引き出しをいかにたくさん増やすことができるかがコーチとしての課題だと思っています」
地元・新潟で指導者としてのスタートを切った加藤コーチ。もちろん捕手だけではない。球団や投手出身の清水章夫監督からは、総合コーチとして野手の打撃、守備、投手陣を含む総合的な選手指導を期待されている。11日の捕手4人への指導の最中には、練習を終えた野手や投手がその指導の様子をじっと見つめていた。チーム復活のカギを握る“カトケン道場”の熱血指導は始まったばかりである。
(取材・撮影・文/岡田浩人)